コラム

風の見える場所で

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数年前、私たちの敬愛している年上の友人とカフェについて話をしていた時のこと。

その人に、「もしも、なんの制限もなくどんな場所にでもお店が作れるのだとしたら、どういうところにカフェを作りたいと思いますか?」と聞いた答えが、「うーん、風の見える場所かな。格好よすぎるかな。」でした。

その言葉を心のすみっこで頼りにしながら、鳥取のいろんなところを巡って辿り着いた先が今HAKUSENのある場所。この場所に辿り着く前には、ここでお店ができたらいいのにと強く思うところが他にもあったのだけど、そこでは強い強い逆風、どうしようもなく打ちのめされて断念。気持ちを変えて方向転換をしてみると今度はとんとんとん、と、不思議なくらいにことが運び、思ってもみなかった場所で、当初考えていたのとは少し違う形でお店を始めることになったのでした。今思えば、私たちらしくお店を始められる一番良い方向に進んでいたのかなと、そんな気さえしています。

この東郷湖沿いの見慣れた景色。小さい頃から家族でよく遊びに行っていた公園も近い。のどかで、広々とした気持ちいい風景が広がっていて、散歩が楽しみになるような、近くにありすぎて気づかなかった、なんでもないけど特別な風景。この場所との出会いは、なんだか幸せな結婚のような顛末でした。

風景の「風」は、吹き抜ける風なんだ、と。これは植田正治さんの言葉。ここではどの瞬間にもすばらしい、美しい風景が広がっています。風の見えるこの場所でお店を始めてもうすぐ一年半。地元とはいえども十年以上も離れると雰囲気も変わっているし知らないことも多い。遠くから越してきて、ちょっと心細くスタートしたこの地で、行きつ戻りつしながらもなんとかここまでやってきました。その月日の中からふわりと立ちのぼるようにゆるやかなつながりもできてきて、私たちだけでは到底できなかったであろうイベントを一緒に企画させてもらっています。この場所がよろこぶようなすてきなイベントになればいいな。数日中にお知らせできるかと思います。どうぞ、お楽しみに。

kaori

 

日常の中に少しの特別を

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ハクセンではどの時間帯もお食事をお出ししていません。お店を始めた頃によくお客さまから、カフェなのに、ランチを出していないなんて!と、驚かれていました。なぜかというとハクセンでは、お茶の時間を楽しんで頂きたいから。大げさだけど、お茶の時間というものが人生に与えてくれるものの大切さを信じています。そこには小さくても確かな幸せがあるはず。少し立ち止まって、大きく息をつく時間を持つだけで、心や体が少し軽くなるように。人が人のことを思って、手間をかけて丁寧に作ったものには力が宿ります。コーヒーも、お茶も、お菓子も、空間も、真摯に丁寧に作られたもの、自分たちでじっくり考えながら作っているものを用意しています。そこで静かな時間を過ごすことで、新しい自分に出会えるのかもしれません。そう考えると、カフェと本とはよく似ている、そんなふうに思います。用意された空間で、一杯のコーヒーと、ちょっとしたお菓子とを楽しみながら、日常の些末なことは忘れて少しぼーっと過ごしてみる。あるいは、本を片手に、しばらく読むともなしにぱらぱらとページを繰ってみる。それとも、いつも顔を合わせている人とのなんでもないおしゃべりの中に何か新しいものがうまれることがあるかもしれない。人は「なにか面白いこと」に出会えるかもしれないと思って、お店のドアを開きます。その「何か面白いこと」というのは、結局は人やお店が与えてくれるのではなく、自分の中にある何かを発見することなのではないかな。素敵な服に出会いたいのではなく、素敵な服を着た新しい自分に出会いたいのでしょう。ハクセンはいつもそういう場でありたいと考えています。みんなでわいわいもいいけれど、自分と過ごす静かな時間もいいものです。ちなみに、一緒に働くスタッフの募集もまだまだ継続中です。

kaori

 

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